「ビリー・ワイルダー」・2

水野重康


情 婦 (前編)

「情婦」の話です。この映画は好きな映画ですね。
元来は、「アガサ・クリステイ」の短編をアガサ女史自ら脚色した舞台劇の映画化でして、原作の単なる映画化とは、一味も二味も違う構成がなされています。
出演者も、「マレーネ・デイートリッヒ」「チャールズ・ロートン」「タイロン・パワー」「エルザ・ランチエスター」と来れば、これはもう「映画の面白さこの一遍に有り・・」と言っても過言ではありますまい。
まず「デイートリッヒ」です。この時は60歳近いのですが、「他を圧する」とはこのことでして、立っているだけで「絵」になってしまいます。
「デイートリッヒ」と言えば「退廃的美貌」でして世にいう「世紀末的な美しさ」と言うのはこの人の「売り文句」ですね。
「情婦」では、まず、出てきたその瞬間から「この女は悪い女だ」・・と思ってしまいますが、その様に「思わせてしまう」のが「ビリー・ワイルダー」の凄さと言うか上手さです。
実は、これには、長い長い伏線が有りまして、「映画史」の様な話になってしまいますが、御読みください。

そもそも、「デイートリッヒ」は「嘆きの天使」を製作する時「J・Fスタンバーグ」によって見いだされました。
「嘆きの天使」は、退官間近の独身教師が退廃的な美しさを持つ下品な踊り子にメロメロに成ってしまい、全てを捨ててこの踊り子と結婚する事に漕ぎ着けはしたものの、これが又、大変な性悪女でして、哀れ、人格者とうたわれた堅物教師はボロボロになって皆の笑い者にされてしまう・・と言うストーリーでして、この性悪女の踊り子を「デイートリッヒ」、堅物の教師を名優「エミール・ヤンニングス」・・と言う取り合わせです。
「チャールズ・ロートン」と「エミール・ヤンニングス」はその風貌が何となく似ているのが「ミソ」ですね。
この映画が元で「デイートリッヒ」は「スタンバーグ」とコンビを組み、世にいう「黄金コンビ」と言われますが、「スタンバーグ」が「デイートリッヒ」に入れ揚げてしまい、「不倫の関係」になってしまいます。
よく言われるのが「モロッコ」のラストで「デイートリッヒ」が「ゲーリー・クーパー」を追いかけていく・・と言う名シーンがありますが、これは、「クーパー」と「スタンバーグ」がダブっている・・と言われています。
「モロッコ」はドイツ表現主義映画と一脈通ずる様な耽美的表現映画ですが「デイートリッヒ」はこの作品により「ハリウッド・デビユー」に成功し、共演の「ゲーリー・クーパー」はこの一作により、日本での「不動の名声」を勝ち取り、大スターにのし上がりました。
また、日本語字幕の第一号作品もこの「モロッコ」なのです。

まあ、あれやこれやで「デイートリッヒ」は「美しき悪女」と言うか、兎に角、「男を虜にしてしまう女」のイメージが映画上で出来上がってしまいました。
「間諜X27」「上海特急」「ブロンド・ビーナス」・・皆そうですね。そして、これが「デイートリッヒ」「スタンバーグ」のコンビによるイメージでした。
この後、二人の関係があまりにもあざとく、鼻につきすぎる・・と言う訳で二人の関係はご破算となりました。この時、「パラナウント」との契約も破棄され「デイートリッヒ」はヨーロッパに渡り、ここで作られたのが「鎧なき騎士」です。
この映画の出来があまりにも良かったので、何と「ヒトラー」が「ナチスの特使」を送ってきて「ナチスのスター」(早い話がナチスの広告塔)になる様に申し出てきたのですが、「デイートリッヒ」は敢然とこれを拒絶し、再度アメリカに渡り、市民権を獲得し、「ナチスと徹底的に戦う」姿勢を示します。
そして、この事が、この後の「デイートリッヒ」の新たなるイメージを作っていく事になるのです・・。



2003年11月

続きを読む 「ビリー・ワイルダー」・3

(※本文中の敬称は略させていただきました)

著者紹介水野重康
49年、静岡県掛川市で100年以上続く医者の家に生まれる。
54年、『ゴジラ』を観て以後、映画にのめり込み、SFを中心として5000本近くの映画を観る事になる。
趣味を通じて、五味康祐氏、田山力哉氏、その他に師事する。
83年、生地に歯科医院を開業して現在に至る。

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