昔の日本映画のテクニック?

ご質問にお答えいたします

水野重康


「田中さんからのご質問」
古い日本映画を観ておりますと、画面が次の場面に変わっているにもかかわらず、前の場面の音声が残っていることがありました。
このことについて私は、昔の録音技術や機材では無理からぬことだったんだろう思っておりました。
しかし、「あれはそういう演出なんじゃないの」と。知人が言いました。
私たちはすでに40代でした。
お互い真偽のほどは、いまだに解かっておりません。
音声が次の場面にかぶるのは、演出なのでしょうか。
それともただ単に、ズレているだけなのでしょうか。

「表題」の件で御座いますが、手っ取り早く申しますと、貴方様もそしてご友人のお方も共に「正しい」のであります。
この件は、不肖私の様な「サウンドトラック・コレクター」が昔から「ああだ・・こうだ・・」と言っている「ウンチク話」の一つで御座います。

まず、基本中の基本の言葉があります。「3フイートは2秒」と言うことです。

「フィルムが3フイート進むのに2秒掛かります・・」と言うことでして、この時、「サウンドトラック」をどの様に操るかで映画の価値が上がったり下がったりします。
元来、人の「五感」に於いて「視覚は聴覚に優先します」。

・・と言う事は、裏を返しますと、聴覚が(音として)認識するのは、視覚よりもごく僅かに遅れます。
この為、「トーキー」に於いては、画像動作の僅か前から音が入ります。
車の「キーッ」と言うブレーキを踏む音、ピストルの「バン」と言う音は、車がターンし、ピストルが火を噴く映像よりも、ほんの3〜4コマ先に出てきます。
そして、「光学録音」には「音の立ち上がりが悪い・・」と言う特性が有ります。
今は「デジタル録音」が多くなりまして「皆無」に近くなって来ましたが、この「悪しき特性」があったために、昔の「作曲家」は大変な苦労をしておりました。
つまり、「バン」とは録音されずに「ウ・バ・バ・バ・ン」とか何とか録音されているのです。
この時の「バ」を一つくらい切り取って、VUメーターがピーク時の所を強調すると「バン!」と小気味よい音に聞こえてくるのです。
本当は、「オシログラフ」で見ると、「切ってある」から変な音の波形になっているのですが、この方が「本物らしく」「誤魔化されて」聞こえるのです。
・・おかしなものですね。

さて、その事を踏まえて、ご質問の事を考えてみましょう。
今は、これも皆無となってしまいましたが、先程も述べさせて頂いた様に、「光学録音」のそれも古い時代の映画ほど「画面に音が合いすぎると馬鹿みたいに見える・・」と言われています。
これを防ぐ方法は二つあります。

)音が数コマ早く入り、画が入り、音が数コマ早く終わる
)音が数コマ早く入り、画が入り、音が「ず〜」と入って入る

「音」と「画」が全く同時に終わる、つまり、「音と画面が一致している・・」のは、「上野寛永寺の竜」みたいなもので「何か変・・」なのです。
「黒澤明」は意識して「大きな場面の転換部分」には、)のやり方を使っていました。
「役者」が「ジ〜」と見詰め合うシーンが数秒間続くシーンの意味はこれです。
さてさて、では、一般的にはどうしているか・・と申しますと、面倒くさいのでほとんどが)です。
・・と申しますのは、「タイムラグにより何もしなくてもシーンとシーンの間に、音がかぶってしまう・・」と言うことなのです。
「くそリアリズムはリアリズムではない・」と言われる様に、「光学録音に於いて、音と画を合わせようと苦心惨憺しても結局はムダな事である・・」と言うことでして、「それならば、何もしないでおきましょう・・」と言う言って見れば「ズルイ」考えから、)の考え方になってしまう事が多いのです。
・・で、どうなるか、と申しますと、貴方様の言われる様に「シーン」と「シーン」に音がかぶってしまいます。

その所を「それではイヤだ・・」と考えて「考えて計算した部分で」音を「カット」してみまして、内心「上手くいった・・」とほくそえんでいても、次のシーンの頭が「何かイヤ〜な感じ」にになりまして妙にシラけてしまうので、「まあ・・仕方が無い・・」と言うわけで音を被せてしまうのです。

これが、「ご友人」の言われる「わざとやっている・・」と言うことであります。
但し、これは日本映画の独特のやり方みたいですね。
外国映画では「転調」を使ったりしています。
本当のことを言いますと、「シーン」と「シーン」に音がまたがっていても大丈夫なのです。
「効果音」等を被せて「ガーン」とやってしまえばよいのです。

このあたりは「ヒチコック」が上手かったですね。

「シーン」の終わりと「シーン」の冒頭で「音」が重なるのは、まあ言ってみれば「宿命的」なものですが(近頃は改善されて来ています)、わざと計算ずくで音を重ねているものも沢山あります。
例えば、「サスペンス物」によく使われるやり方ですが、電話を掛けてその「ベル」がなる、一回二回と「ベル」がなる、そこで「シーン」が変わる(シーンであってカットではない・・)、「シーン」が変わっているのに1〜2秒「ベル」の音が入り「ベル」が鳴り響いている・・。
この様に、「音」のかぶりをわざと利用し使っている事もあります。



2003年11月

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(※本文中の敬称は略させていただきました)

著者紹介水野重康
49年、静岡県掛川市で100年以上続く医者の家に生まれる。
54年、『ゴジラ』を観て以後、映画にのめり込み、SFを中心として5000本近くの映画を観る事になる。
趣味を通じて、五味康祐氏、田山力哉氏、その他に師事する。
83年、生地に歯科医院を開業して現在に至る。

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