評論「AIKI」

水野重康


下半身麻痺の重度障害者が、古武術を身につける。この驚くべき物語を日本映画界の巨人今村昌平の実子で知られる天願大介監督が強烈な青春映画として仕上げたのがこの作品。

グリーンボーイながらプロボクサーの主人公・太一は交通事故により一生車椅子の生活となる。事故加害者は取り調べ中に自殺。荒れる太一の前から、友人・恋人も全てが去って行く。酒を飲んで不良達にボコボコにされたのがきっかけで、太一はテキ屋の親方や、変な女(ともさかりえ)、さらには合気柔術の実直な師範と知り合う内に、次第に落ち着きを取り戻し、合気柔術の口伝「相手を拒絶するのではなく、まず、受け入れよ」が実は自分自身の新しき運命「車椅子」と重なっているのにきずき、この事が新生への道を開いていく。

TVでやれば、「しょ〜もない」青春ドラマが確かな演出により極上の作品となった珠玉の一遍である。
主役の加藤晴彦は「ケーハク」を絵に描いた様な兄ちゃんだと思っていたが、どうして、なかなかの演技力の持ち主であり、暗い前半と開放感あふれる後半部の対比は実に見事なものである。

流れのギャンブラー「イカサマのサマ子・・(だそうです)」を演じる、ともさかりえは相変わらず軟体動物的な演技だが、これが、なかなか良いのよね。ともさか初のベッドシーンがあるがこれはオマケですな。今村昌平ならばここはもすごくエグ〜イのですけどそうはなりませんよ。期待しちゃだめですよ。

天願大介の演出は、重度障害者という題材を描く為に下半身麻痺の生活をリアルに表現し、タブー視されてきた「排泄」や「性」の問題にまで入り込みながら「笑い」というオブラートで包み込み、なおかつキラリと光る「リアリズム」を見せる辺りは今村昌平ゆずりである。

おやじさんほどの強烈さはないが、サラリと流す現代的な感覚は大いに好感がもてる。

ラスト近くで「古武術大演武会」が開かれ、見るも恐ろしい「暗黒武術」と戦う処は正に爆笑物。但し、どちらかというと蛇足に近い。

最後は、ヤクザに追われて失踪した「サマ子」をさがすべく一人北へと向かう主人公・太一の姿には復活を遂げた人のみが持つさわやかさが感じられ、映画とはいえ「幸多かれ」と祈りたい気分になってしまう。

現在において、この監督は並の力量の持ち主ではない。
これは、滅亡した日本映画の復活の最初の一コマかもしれない。それほどの良品である。

必見。

尚、「AIKI」とは「合気柔術」のことであります。



2003年2月脱稿

(※本文中の敬称は略させていただきました)

著者紹介水野重康
49年、静岡県掛川市で100年以上続く医者の家に生まれる。
54年、『ゴジラ』を観て以後、映画にのめり込み、SFを中心として5000本近くの映画を観る事になる。
趣味を通じて、五味康祐氏、田山力哉氏、その他に師事する。
83年、生地に歯科医院を開業して現在に至る。

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