メリーラ

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第11章  コークの親切

「バーバラ、あなたに聞きたいことがあって、こうして来たのよ。メリーラが怪我をしていることを、あなた知ってる?」
  バーバラの顔色がさっと変わった。答える前にとっさに、考えをめぐらせた。あれだ‥コークに切らせた縄ばしごから、まんまと落ちたのだ。内心ほくそ笑んだ。しかしなぜ、メリーラの母親がうちへ来て、私にこんなことを聞くのだろう?もしあのとき、誰かがあの場所を通りがかって目撃していたのだとしても‥コークの姿しか見ていないはずだ。私はその場にいなかったんだもの、問い詰められても知らないふりをしていよう。万が一のときは、全部コークのいたずらってことで、罪を押し付ければいいわ。彼女は演技を始めた。
「メリールが!?ああ、なんてことなの!今初めて知ったわ、おばさま。一体どうして怪我なんて?メリール、大丈夫なの?」
  ネリルは、小悪魔と争う気はなかった。
「そう、知らなかったのね。あの子、しばらく学校を休んでいるし、みんな不思議に思ってるんじゃないかと思ってね。もういいわ、ありがとう。ごめんなさいねお邪魔して。」

  バーバラが去った後、裏口から帰ろうとしたネリルは、どうやら今の話を盗み聞きしていたらしい、にこにこ顔のコークを、廊下の隅に見つけた。
「こんにちは。こっちへいらっしゃい。もし良かったら、おばさんお菓子を持ってるんだけど、お一ついかが?」
  そう言って、大きなビーズのバッグから取り出したのは、こけもものマフィンだった。ネリルは外出の際、お腹がすいたときのためにお菓子を持って歩くのが常だった。コークはたちまち目を輝かせて、うれしそうに近づいてきた。おいしそうにマフィンをほおばるコークに、ネリルは興味をもって尋ねてみた。
「あなたぐらいの年頃って、日常のすべてのことが大冒険なのよね。最近の大冒険を、おばさんに教えてくれない?たとえば、木に登ったとか、川へ飛び込んだとか、動物をつかまえたとか‥‥」
  この巧みな質問に、コークはこう答えた。
「ぼく、ヒミツのニンムを、りっぱにはたしたよ。それはヒミツだからおばちゃんには言えないや。でもね、木とハサミに関係のあることだよ。」
  コークにとって目の前にいるのは"知らない人だけど、お菓子をくれたいい人"で、それ以上の何者でもなかった。彼は、木の上に人がいたことや、このおばさんがメリーラの母親だということを知らないのだ。このおばさんに、この間の自分のいたずらを話しても、特に問題はないように思えた。誰にも言っちゃいけないって、姉ちゃんは言わなかったもの。
  コークの言葉に敏感に反応したネリルは、コークにもうひとつマフィンを与えながら、さらにやわらかく尋ねた。
「まさか、ハサミで枝を切ったり、木を傷つけたりしたんじゃないわね?そんなことをしたら、木は腐って、死んでしまうのよ。いけないことなのよ。」
  ネリルの誘導に、コークはあっさりひっかかった。
「だいじょうぶだよ!ぼくが切ったのは枝じゃなくて、はしごだよ。木からぶらさがってるやつ。固くてなかなか切れなかったけど、姉ちゃんがキャンディーをくれるって言うから、ぼくがんばって上の方まで背伸びして切ったんだ。ぼく、りっぱでしょう?おばちゃん。」
  恐ろしい事実を突き止めたものの、ネリルの心は一向に晴れなかった。あの娘‥‥平気で嘘をついた上、食べ物で弟の心を引いて、自分の手は汚さずに悪事をはたらくとは!
「あんたは‥‥よくやったよ。あんたの姉ちゃんは、なんでまたはしごなんか、切るように言ったの?」
「さあ‥ぼく、よくわかんないや。きっと、女だからいたずらなんて、はずかしかったんじゃないかな?姉ちゃんがいつも言ってるけど、『レディらしくないことはしない』んだよ。おばちゃんだって、もういたずらなんかしないんでしょう?おばちゃん、このお菓子、どうもごちそうさま。おばちゃんの分がなくなっちゃうよ。」
  この幼い心は、あの母親と姉と同じ屋根の下にいるにも関わらず、まだ毒されてはいないようだ。
「優しい子だね、あんたは。いろいろ話してくれてありがとう。あんたはとってもいい子だから、いくらキャンディーがほしいときでも、姉ちゃんの言うことはあんまり聞かないほうがいいよ。何かと引き換えにものを頼まれるときは、大体悪いことに決まってるんだからね。よく、覚えておくんだよ。」
  この家で、果たしてコークが無事"いい子"に成長できるかどうか、一抹の不安を抱きながらも、ネリルは表へ出た。振り返ると、コークが窓から身を乗り出し、ネリルがあげた3つ目のマフィンをかじりながら、にこにこして手を振っていた。ネリルは意を決してケンダル夫人に向かい、バーバラのしたことと、それによるメリーラの被害を話して聞かせた。夫人は、初めのうちは信じようとしなかったが、ネリルの剣幕に圧倒され、ついには、
「明日でよろしければ、あの子と二人でおわびに伺います。」と、力なくうなだれた。

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