インスリン「ランタス」について





「ランタス」は、新規の長時間作用型のヒト遺伝子組み換え型インスリンで、オーストラリアのクイーンズランド大学の研究で高い離脱率(つまり、糖尿病が治る確率)が得られたことから1)、猫の糖尿病治療の第一選択として使用されるようになっています。
元来人間用のインスリンで、人間においては一度注射すれば作用が24時間持続し、作用に顕著なピークが認められないのですが、猫では投与後16時間でピークに達するというデータも出ています。2)
作用持続時間には個体差がありますが、猫では一日二回投与が一般的です。




ランタス使用に当たっての基本的注意


−希釈しない:皮下注射した際、皮下脂肪との作用でゆっくり吸収されるようpHが調整されている。
−保存は冷蔵庫で:室温では28日間、冷蔵庫では6ヶ月まで大丈夫とのことですが、3ヶ月ごとに買い換えることをお勧めします。
−激しく振らない:インスリン製剤全般に言えること。激しく振ると、インスリンの結晶が壊れてしまいます。




ランタスの体内動態と注意点


ランタスは、長時間ゆっくり作用するため、次の注射時間にはまだ作用が持続していることが多い。また、治療を開始してから作用が発現するまでに日数がかかることがある。
そのため、血糖値がなかなか下がらないからといって安易に用量を増加すると、低血糖やソモギー効果が起きてしまう可能性があるので注意。
尚、注射部位は首の付け根より体側の皮下の方がよいという意見もある。首の付け根は血行がよくないため、注射されたランタスが投与部位に蓄積してしまうことが考えられるからである。




ランタス投与プロトコル


インスリン投与は担当医の指示の下で行っていただくのが基本ですが、もしこれらのプロトコルに興味があれば、担当医と相談されることをお勧めします。


1.クイーンズランド大学、Dr. Randのプロトコル3)

開始時の用量
投与前の血糖値が360mg/dL以上若しくはNadir(最低値)が180mg/dL以上のとき 0.5単位×体重(Kg)を一日二回
投与前の血糖値270以上360mg/dL未満若しくはNadirが90以上180mg/dL未満のとき 0.25単位×体重(Kg)を一日二回

この用量で、4時間おき12時間のグルコースを3日間チェックする。最初の数日間は血糖値が顕著に下がらない猫が多いが、血糖値が高いままでも、1週間用量を変更しない。但し血糖値が下がりすぎたときは用量を減らす。

用量の調整
治療開始後、1週間、2週間、4週間、その後は必要に応じて4時間おきのグルコース曲線をチェックし、以下の通り用量を調整する。
投与前の血糖値が360mg/dL以上でNadir(最低値)が180mg/dL以上のとき 0.5から1単位増量する。
投与前の血糖値270以上360mg/dL未満若しくはNadirが90以上180mg/dL未満のとき 用量を維持する。
投与前の血糖値190以上270mg/dL未満若しくはNadirが54mg/dL未満のとき Nadir、飲水量、尿糖、次回のインスリン投与前の血糖値等から用量を維持するか減量するか決定する。
投与前の血糖値180mg/dL未満若しくはNadirが54以上72mg/dL未満のとき 0.5から1単位減量する。もし既に用量が0.5から1単位なら投与を中止し、インスリン離脱出来たか確認する。
低血糖症状が観察されたとき 用量を半減する。
飲水量がウェットフードで20mL/Kg未満、ドライフードで70mL/Kg以上のとき 用量を維持する。
飲水量がウェットフードで40mL/Kg以上、ドライフードで100mL/Kg以上のとき 0.5から1単位増量する。
尿糖が3+以上のとき 0.5から1単位増量する。
尿糖が陰性のとき 1単位減量し、最低インスリン量で離脱出来たか確認する。



2.ドイツの猫糖尿病フォーラムのプロトコル4)

ランタスを0.25単位レベルで調節しながら、徐々に血糖値を下げてゆき、最終的には離脱を狙う。根気が要るが、猫の体に優しいタイトレギュレーション。
(詳細は こちらのサイト(英語)をご参照ください。)

第一段階:開始時
インスリン治療が初めての場合は0.25IU/Kgから開始。他のインスリンで治療した経験があれば適宜調整。一日に3時間おきに12時間(朝の投与直前、投与3時間後、6時間後、9時間後、夕方の投与直前)血糖値を測定。尿検査を行いケトンの有無を確認。
基本的にはこの用量を1週間キープ。但し血糖値が50mg/dL以下まで下がりすぎれば用量を減らす。

第二段階:用量増量
0.25-0.5単位ずつ、少しずつ用量を増やしていく。基本的には、用量を増やすタイミングは5-7日ごと。但し、Nadir(最低値)が300以上なら3-4日で0.5単位、200以上なら3-4日で0.25から0.5単位増量。
多くの猫は、用量を増量すると、2-3日以内に血糖値が増加し、24時間程度で落ち着く。原因は不明で、恐らく肝臓がパニクっていると思われる。気にせずに同じ用量で治療を続ける。
猫の日常の血糖値が、正常値を示し始めたら、インスリン増量をやめ、第三段階に移行する。

第三段階:用量維持
一日の大半の血糖値が50から200mg/dLに治まる用量を維持する。低血糖にならないように注意。インスリンをこの用量で継続すると、多くの猫は血糖値が50から100mg/dLの範囲に収まるようになってくる。

第四段階:用量減量
毎日の血糖値が常に100未満になったら、若しくは最低値が50未満に達することがあるようなら、用量の減量を試みる。
減量は、いきなりではなく、0.25-0.5Uずつ徐々に行う。

第五段階:離脱
14日間インスリンなしで血糖値が正常値を示せば、離脱できたとみなしてよい。
但し、低炭水化物食は継続し、ステロイドの投与はできるだけ避けること。

参考資料

1) R. Marshall and J. Rand, "Insulin glargine and a high protein?low carbohydrate diet are associated with high remission rates in newly diagnosed diabetic cats", J Vet Intern Med 18 (2004), p. 401
2) R. Marshall and J. Rand, "Comparison of the pharmacokinetics and pharmacodynamics of glargine, protamine zinc and porcine lente insulins in normal cats", J Vet Intern Med 16 (2002) (3), p.358
3) R. Marshall and J. Rand,
"Diabetes Mellitus in Cats", Vet Clin Small Anim. (2005) 35[1], p211
4) Tilly's Diabetes Homepage, Diabetes in Cats



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