第十九章:インスリンが効きすぎる

2008年2月上旬




Dr. ホジキンスタイトレギュレーションプロトコルを始めて、約一ヶ月。ここで、みぬの血糖値変動に変化が起きた。というのは、今まで与えていたインスリン用量では、血糖値が30台や40台まで下がりすぎてしまうようになったのである。かといって、まだまだ離脱とは程遠く、大きく血糖値が下がった後には必ずリバウンドが起き、一日に一度は300を超えるのは当たり前。数日に一度は400を超えることもあり、手放しで喜べる状態ではなかった。

ここまでみぬの血糖値コントロールに苦労してきた私は、疑い深くなっていて、ポジティブな変化を素直に受け入れることが出来なかった。
「もしかしたら、最近注射器を変えたのが原因かも。」
実は、今まで病院から買ったNIPROの注射器を使っていたが、タイトレギュレーションプロトコルでは注射の回数も多くなるので、最近通販でUlticareの注射器を買ったのである。私は、二つの注射器を並べて比べてみた。確かに、どちらも容量は1/2mLだが、病院から買ったものの方が目盛りの幅は狭いながらもその分若干太いようである。ましてや、みぬに注射するインスリン量なんて、多くても2単位程度。たとえ目盛りの幅に誤差があったとしても、ほんの僅かの違いである。

念のため、注射器間の誤差の可能性について、Dr. ホジキンスのサイトのフォーラムで質問してみた。まず、フォーラム管理人のBさんからレスポンスが来た。

「私はNIPROの注射器もUlticareの注射器も使ったことがないけど、糖尿病の改善と共にインスリン用量が減るのはよくあること。これはいい兆候です。みぬちゃん、大分よくなっているみたいですね。これからもこの調子で続けてくださいね。」

次に、このフォーラムで度々お世話になっている看護師のSさんからレスポンスが来た。

「針の長さの違いがインスリンの吸収速度に影響することはあるけど、注射器自体の長さや太さは関係ないわよ。最近インスリンが効きすぎているみたいだから、少なくとも0.25単位は減らしたほうがよさそうね。」

針の長さが違うと、皮下のどの部分にインスリンが注入されるかが変わってくるので、吸収速度に変化が出ることがあるらしい。そこで、再び2本の注射器を比べてみた。針の長さは全く同じである。

とにかく、リバウンドが起きると後が厄介なので、私はインスリンの用量を減らしてみた。すると、インスリンの効き方、血糖値の下がり方に変化が起きた。
今まで高用量のインスリンを与えていたときは、時間と共に血糖値が下がって、6-7時間後に最低値に達していたが、インスリンが低用量になると、注射して2-3時間は血糖値が全く下がらなかったり、逆に血糖値が上がり続けたり、一見インスリンが効いていないように見えるが、その後急激に下がり始め、インスリンの効果が最大となるときには正常値に収まるようになった。この急激な低下は、注射によるインスリンだけでなく、みぬ自身が分泌しているインスリンの効果にもよるようだ。
私がこのことをDr. ホジキンスのサイトのフォーラムで報告すると、Mさんというカナダの女性からレスポンスがあった。

「PZIが効き始めるのは投与してから2時間程度なので、それまで血糖値が上昇し続けるのは普通ですよ。今の用量で丁度いいみたいですよ。」

続いて、看護師のSさんからレスポンスがあった。

「いちいち2時間ごと3時間ごとにこまめに測定しすぎるから、その結果にショックを受けるのよ。最低値をどこまで下げられるかの方が重要。結果を見ると、大体注射後7時間で最低値に達しているようだから、その前に血糖値を測定する必要はないわよ。」

なるほど。今まで神経質になりすぎて、一日に何度も無駄に血糖値測定をしてきたけど、これからはもっと心に余裕を持たなければ。それにしても、血糖値は20-30の低血糖状態から500や600を超えるほどの高血糖まで変動しえるのに対し、標準値は60から130程度。何と狭い幅なのだろう。健康な猫なら、自分自身が分泌するインスリンと他のホルモンの相互作用で丁度いいバランスがキープされるのだが、糖尿病の猫では、同じ血糖値に対し、同じ用量のインスリンを注射で与えても、必ずしも同じように効いてくれるわけではない。一体いつまで血糖値と闘い続ければいいのだろう?気の遠くなる話である。
でも、考えてみれば、まだこのタイトレギュレーションプロトコルを始めて一ヶ月しか経っていない。糖尿病の診断が出たときには、年単位での闘病を予想していたので、それに比べれば一ヶ月なんて全然大した期間ではない。一ヶ月でインスリンの用量減量に成功したことを考えると、もしかしたらこのまま頑張り続ければ、離脱も夢ではないかもしれない。


(だいぶふっくらしたみぬ。11月の入院時に剃られた首周りの毛もかなり伸びた。)


そんなとき、今までよくこのフォーラムで私にアドバイスをしてくれていたAさんが、彼女の愛猫ムースちゃんのデータを再度アップし始めた。ムースちゃんは、去年の夏、このタイトレギュレーションプロトコルでたった2週間でインスリン離脱できたはずだったのに、何が起きたのだろう?
見てみると、ムースちゃんは最近他の病気が原因でヴァージニアからテキサスに移動し、そこで入院治療が行われたらしい。入院期間は3日間ほどだったようだが、退院してみたら、糖尿病を再発していたとのことである。尤も、血糖値が標準より高いといっても、200未満なので、毎回300台400台を出しているみぬに比べると全然大したことないと思ったが、それでもAさんには許せないようだった。Aさんは、ムースちゃんの血糖値が上がったのは、入院先でドライフードを与えられたせいだとして、かなり憤慨していた。
「ヴァージニアからテキサスへの移動や、入院のストレスもあったんじゃないの?」
とも思ったが、実際膵臓が弱く糖尿病を起こしやすい猫に対して、ドライフードがかなり悪影響を与えるのは事実のようだ。考えてみれば、恐らくその前から病気は進行していたものと思われるが、みぬが顕著な糖尿の症状を示し始めたのは、私が3泊の出張でペットシッターさんにお願いしてドライフードを与えてもらって以来だった。今後はたとえみぬの糖尿病が治ったとしても、絶対にみぬにドライフードを与えないようにしないと…。

昼夜問わず、放っておくと上がり続けてしまう血糖値との闘い。週末の朝、その日最初のインスリン注射を完了してからは、私にとって一週間分の寝不足解消のための休息時間となっていた。私がベッドに入ると、みぬも私と一緒に寝た。親ばかながら、こうやって甘えられるのがたまらなく幸せなのである。
「みぬちゃん、もうちょっとだよ。頑張ろうね。」
一時期4Kgを割っていた体重も、今では4.3Kg程度まで回復し、まだ食後にはよく水を飲むが、それ以外は病気発症前と変わらないくらい元気になった。考えてみれば、血糖値自体より、QOL(quality of life:生活の質)の向上の方が大切なのかもしれない。

2月4日から10日まで一週間の血糖値曲線。緑色が正常範囲で、黄色が高血糖でも症状が出ないとされる範囲。青い四角は血糖値測定後にインスリンを注射したことを示す。2月4日の高血糖は、注射の失敗による。2月6日あたりからインスリンが効きすぎて血糖値が下がりすぎる傾向が見られ、9日より用量を減量した。



インスリン用量スライディングスケール(投与間隔や血糖値の変動状況により適宜調整)

2月4日〜2月7日
血糖値(mg/dL) 投与量(IU)
151-170------ 1.5
171-200------ 1.75
201-220------ 2.00弱
221-250------ 2.00
251-290------ 2.25
291-350------ 2.5
351-500------ 2.75

2月8日(全体的に0.25単位ずつ減量)
151-170------ 1.25
171-200------ 1.50
201-220------ 1.75弱
221-250------ 1.75
251-290------ 2.00
291-350------ 2.25
351-500------ 2.50

2月9日〜(それでもまだ効きすぎるため、更に減量)
135-170------ 1.25
171-200------ 1.25強
201-220------ 1.50
221-250------ 1.50強
251-290------ 1.75
291-350------ 2.00
351-500------ 2.00強


(続く)





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