第二九章:元凶はドライフードにあり?

2008年6月上旬




注:今回の内容はあくまで一冊の本に基づいており、専門家によって見解が分かれます。情報の解釈及び判断は自己責任でお願いします。

最近、Dr. ホジキンスの著書「Your Cat -Simple New Secrets to a Longer, Stronger Life(貴方の猫−丈夫に長生きさせるためのシンプルで新しい秘訣)」を買った。実は、Dr. ホジキンスの運営する猫糖尿病サイトのメンバーになると、必ずこの本を買うように勧められるのだが、私はメンバーになって数ヶ月間この本を買いそびれていた。実際猫の健康、特にホリスティック獣医学に関する本なら既に数冊持っているし、更に改めて猫の健康に関する本を買う必要があるのか疑問に思っていたのだ。
しかし最近休暇が取れて時間に余裕が出来たので、やっとこの本を買って読んでみようかという気になった。因みにこの本が一冊売れたところで、Dr. ホジキンスに入る印税は僅か2.6ドルなので、彼女も金儲け目的でメンバーにこの本の購入を勧めているわけではないらしい。

約300ページから成るこの本は、ハードカバーで思ったより厚みがあった。表紙の茶トラ×白の猫の写真が何とも可愛らしい。
この本は五部で構成されており、第一部はイントロダクション、二部から四部までは各ライフステージ(幼猫期、成猫期、老猫期)における健康管理やありがちな病気への対策、そして第五部は猫の健康に関する俗説について詳細に解説している。

しかし、実際読んでみると、各ライフステージにおいて例えば成猫期なら糖尿病の他にも肥満、脂肪肝、IBD(炎症性腸炎)、老猫期なら腎不全、心臓病など、様々な病気について解説されているのだが、彼女の結論は必ずと言っていいほど 「ドライフードをやめてウエットフードに切り替えると症状が改善し、生肉にすると更によくなる」ということになっている。そして、「野生の猫はライフステージに関係なくネズミや鳥などの小動物を食べているわけだから、ペットの猫もライフステージよって食事を変える必要はない」らしい。
これだけのことが言いたいのならわざわざ300ページ近くも割く必要はないのだが、この著書が興味深いのは、Dr. ホジキンス自身実際ペットフード会社に勤務した経験があって、その製品開発及び製造工程を一部始終把握していること、そして特にドライフードがどのようなメカニズムで各健康障害を起こすかを理論的に説明している点だ。

まず、ドライフードがどのようにして製造されるかだが、この工程は人間の朝食シリアルの作り方とよく似ているらしい。当然肉だけではあのカリカリの食感は得られないので、小麦粉やコーンミールなど大量の穀類が必要になる。そして、人間用朝食シリアルを子供好みにするために砂糖水を表面に塗す要領で、猫用ドライフードには猫好みにするために家禽類の内臓を醗酵させて作った汁(消化物、ダイジェストと呼ばれる)を塗すらしい。

恐いのは、猫の体は穀類を食べるようには出来ていないため、ドライフードで過剰な穀類を摂取することにより様々な弊害が起こりえることである。
まず、猫は肉食なので、肉に含まれる蛋白質から効率的にグルコースを作り出すことができるわけだが、肉以外から摂取した大量のグルコースを処理できるようにはプログラムされていない。そこでドライフードによって過剰な穀類を摂取すると、穀類に含まれる炭水化物はグルコースの直接の原料になるため、猫のインスリンの処理能力をオーバーしてしまい(以下「注」参照)、血糖値が上昇し、結果として糖尿病の原因になる…と、いうのがこの本を買う前の私の解釈だった。
(注:私は一部誤解していた。猫はアミラーゼを殆ど持たないため、炭水化物から効率よく直接グルコースを作ることは出来ない。ドライフードには肉以外の原料由来のグルコースそのものもかなりの量で含まれており、これが血糖値に直接影響するらしい。)

しかし、問題はこれだけではない。本来肉のみを食べるようにプログラムされている猫の体は、動物性の蛋白質や脂肪が十分に摂取できて初めて満足感を得られるようにできているため、穀類を沢山食べても他の必要な栄養が満たされない限りは満足感が得られないらしい。そこで、ドライフードのように穀類含量が多く蛋白質含量が低い食事だと、いつまでも満足感が得られず、結局食べ過ぎてしまうことになる。こうして、更に過剰な炭水化物や糖質を摂取することになり、糖尿病のみでなく肥満の引き金にもなる。よく「太った猫は糖尿病になりやすい」と言われるが、実は太っているから糖尿病になるわけではなく、同じ原因で、猫の体質によっては糖尿病のみを発症したり、肥満のみを発症したり、或いは両方を併発したり等、症状の出方にも様々なパターンがあるわけである。市販のダイエット食は、カロリーを下げるため脂肪分を極度に減らしてその分を穀類で補っているため、猫のダイエットには全く効果がないどころか却って悪影響だという。そもそも猫は動物性脂肪を多く摂取しても肥満にはならないらしい。確かに言われてみれば、ダイエット食を食べていても全然痩せない猫が多い。そもそも人間におけるカロリーの理論を、消化の仕組みの全く異なる猫に当てはめること自体に無理があるのだ。
そういえば、私はいつも旅行に出かけるときにはペットシッターさんにお願いしてドライフードとウエットフードを与えてもらうが、ペットシッターさん曰く、みぬもフローラもドライフードの方ばかりを食べていたそうだ。私が帰ると、いつも二匹とも一回り太って、猫トイレは排泄物が増えて異常に臭く、みぬの方は目脂が出ていた。絶対ドライフードには猫を虜にするからくりがあると思っていたが、これでよくわかった。

他にも、ドライフードがよくないことが知られている病気には尿路結石がある。実際にドライフードを食べて尿路結石を起こした猫の尿検査をした結果、尿がアルカリ性でマグネシウムを多く含んでいたことから、「尿路結石予防食」として酸性でマグネシウム濃度の低いドライフードが作られたが、実はこれにより逆にカルシウムが原因となって結石を起こす猫が増えたという。問題はマグネシウムやアルカリではなく、元来水を飲む習性のない猫にドライフードを与えて、脱水症状を起こさせ、尿を極度に濃縮させてしまったことにあったようだ。

そして、高齢の猫に起こりがちな慢性腎不全。人間、そして犬においても、蛋白質の過剰摂取は腎臓に負担を与えるという懸念から腎不全には蛋白質を抑えた食事療法が行われるが、しかし、元来肉食の猫にこの考え方は当てはまらないため、最近では腎臓が悪いからこそ高蛋白食を勧める獣医が増えてきているそうだ。まず、腎不全になると猫は尿量が増えて脱水症状が進行するが、ドライフードを与えることで脱水症状は益々悪化する。その上、ダメージを受けた組織を回復させるためにも蛋白質が必要なのに、その蛋白質を制限されると、組織が回復できず、ダメージは更に進行する。
特に興味深かったのは、腎不全の指標としてBUN(血中尿素窒素)がよく用いられるが、尿素は蛋白質の代謝産物で、現在「標準値」と言われているのは市販ペットフードを食べている猫における標準値なので、健康な猫でも蛋白質を多く摂取すればBUNが高くなるのは当然であり、多少高い分には問題ないらしい。BUN自体は体にダメージを与えないので、つまり、猫の腎機能の指標として、BUNを測定することは無意味ということになる。猫の腎臓に有害なのは蛋白質よりリンの濃度の高い食事なので、高蛋白で尚且つリンを含まない食材として卵白(加熱したもの)を食事に混ぜるか、リン吸着剤を加えてリンが体に吸収されないようにする方が蛋白質を制限するより腎不全には効果的らしい。

その他、IBD(炎症性腸疾患)、喘息、皮膚炎等のアレルギーも、ドライフードに含まれる原料が原因になっていることが多く、ドライフードをやめるだけでこれらの症状が改善する猫が多いと言う。そして、ドライフードは歯のためにいいと信じられているが、実は唾液と混じることで歯の周りにこびりついてしまうため、結局は虫歯や歯周病の原因になるらしい。

元々ペットフードは犬用に開発されたものだったが、その簡便さが消費者に大好評だったため、その猫バージョンが考え出されたらしい。しかし犬と違って完全な肉食である猫には無理があったようだ。Dr. ホジキンスは著書の中で「猫は小さな犬ではない」ことを何度も強調している。
療法食には「このフードで猫の血糖値が改善した」「腎機能に改善が見られた」などの謳い文句が付き物だが、実はこれらは最初から良好な結果が出るよう仕組まれた試験を短期間のみ行ったデータであり、長ければ20年にも及ぶ猫の一生に対する影響までは考慮されていないという。しかしそれでもこのような謳い文句に消費者のみでなく獣医までも洗脳されてしまっているらしい。実際みぬがケトアシドーシスで入院した際、DMフードの缶とドライ両方が処方されたが、みぬは生肉メインの手作り食よりDM缶フードを与えた時の方がやたら喉が渇いて辛そうだった。ここでドライフードなど与えたら益々喉が渇きそうなので、処方されたドライフードの方は未開封のままにコンテナの中に眠っている。それでもみぬを診察した獣医は誰もが療法食は体によいと信じていて、私は何度も「生肉なんか食べさせてはいけません。DMフードを与えなさい」と注意された。今後みぬを診察する獣医には、是非このDr. ホジキンスの本を読んでいただき、それでもなお何故生肉はダメで療法食がよいと思われるのか、見解をお伺いしたいところだ。


(左:紙袋に入ったフローラにちょっかいを出すみぬ、右:おもちゃにじゃれるみぬ。)


ところで、前章でも書いたとおり、5月末から7月末まで毎週金曜日を休暇にしているが、6月6日金曜日は朝からフローラを定期健診に連れて行くことにした。まず、6月2日月曜日、予約を取るためにキャットホスピタルに電話をした。受付嬢が、
「もう片方の子はどうしてますか?最近見ませんけど」
と訊いてきたので、私は
「まだインスリンは必要ですけど、元気ですよ。ただ健康診断なら去年の12月に専門病院で一通り受けましたので」
と答えた。今後のみぬの定期健診のスケジュールは、ここで受付嬢に話すより、実際先生と話し合って決めようと思った。

6日当日、クローゼットからキャリーケースを出すと、真っ先にみぬがソファの下に逃げてしまった。過去の病院通いがよほどトラウマになっているようだ。
「今日病院に行くのはフローラだよ」
フローラは、車の中でも、病院の待合室でもずっと「みゃう〜、みゃう〜」と鳴き通しだった。猫にとってキャリーケースでの移動はかなりストレスになるようだ。待合室には他にも数匹の猫がいたが、中でもフローラはひときわうるさかった。

今回フローラの検診を担当したのは、去年11月にみぬがケトアシドーシスを発症した際にお世話になったM先生だった。3月に5歳の誕生日を迎えたフローラは、生まれてこの方一度も病気らしい病気などしたことはない。M先生は、フローラの体を触診し、「ふわふわの素敵な毛皮ね。今回も問題なし。とても健康です。」と言い、フローラに狂犬病のワクチンを打った。私が、
「あの、去年の2月、みぬが尿路感染でお世話になったんですけど、そのときの検査結果を見せていただけますか?」
とお願いすると、M先生はみぬのファイルを取り出し、去年2月のデータを探してくれた。病気をしたことのないフローラのファイルは通院記録の厚紙一枚だけ(しかも定期健診のみ)なのに対し、みぬファイルはずっしりと厚みがあった。
当時、私はアルゼンチンを旅行中で、ペットシッターさんがみぬの異常に気づき、キャットホスピタルまで連れてきてくれたのだ。あの時は、毎日のようにアルゼンチンの公衆電話からペットシッターさんに連絡をし、みぬの安否を確認した。それまでみぬは私が旅行に出かけても病気になったことなどなかったので、私も安心しきっていた。
「このときは尿検査しか行わなかったんですけど、糖もケトンも陰性でしたね。潜血は出てましたけど。」
ということは、去年の2月の段階ではまだみぬは糖尿病を発症していなかったことになる。私が、
「去年12月に一通り専門病院で検査を受けたんですけど、今後みぬの定期健診はいつにすればいいですか?」
と訊くと、M先生はこれからは毎年12月に定期健診を受けるよう勧めてくれた。専門病院での検査で、みぬは糖尿病以外に特に問題は見つからなかったのだが、ただ私はみぬが昔から歯周病を指摘されていたことが気になっていた。歯周病は実は血糖値にも影響を与えるので、歯のクリーニングをすれば血糖値が改善することも少なくないらしい。そこで、そろそろみぬの歯もクリーニングをしなければならないと思っていたことをM先生に話すと、M先生は、
「いいですよ。受付で予約を取ってください。」
と答えた。
「糖尿病なので、デキストロースを使わずに処置していただけますか?」
「うちではデキストロースは使いません。糖尿病の子には、治療中血糖値が正常に保たれるよう管理します。抜歯の必要がなければ10分ほどで完了しますよ。朝から食事もインスリンも与えずに連れてきてください。」

受付での会計の際、次の週の金曜日にみぬの歯のクリーニングの予約を入れた。
「朝7時から9時の間に連れてきてください。3時半までには全て完了します」
実際施療自体は10分しかかからないということだったが、病院では数時間過ごすことになる。朝からインスリンを打つなといわれたが、それでなくても病院嫌いなみぬなのに、待ち時間の間にストレスで血糖値が上がってしまいはしないか?麻酔は血糖値変動にどう影響するんだろう?不安だらけだが、元々はみぬの糖尿病を改善させたくて決めたことだ。ドライフードにしろ、トリートにしろ、食べるだけで歯が完全に奇麗になる魔法の食べ物などあり得ない。みぬには少し耐えてもらうとして、この歯のクリーニングがきっといい結果をもたらしてくれることを期待するとしよう。


5月26日から6月1日まで一週間の血糖値曲線。緑色が正常範囲で、黄色が高血糖でも症状が出ないとされる範囲。



6月2日から6月8日まで一週間の血糖値曲線。週の後半は300以下に落ち着いたが、もう少し下がってもよさそうだ。


インスリン用量スライディングスケール

5月26日〜
血糖値(mg/dL) 投与量(IU)
135-150------ 0.80 (前回の投与から8時間以上経過している場合のみ)
151-170------ 0.80
171-200------ 1.00
201-250------ 1.00 強
251-290------ 1.20
291-350------ 1.40
351-500------ 1.60
前回の投与から7時間未満の場合は0.2単位減量する





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