第四章:連日の病院通い2007年11月5日〜7日
11月5日月曜日の早朝、嫌がるみぬをキャリーケースに入れ、キャットホスピタルに車を走らせた。以前に住んでいたアパートからは5分程度で行けたキャットホスピタルも、夏に現在のコンドミニアムに引っ越してからは特に朝のラッシュ時には30分もかかるようになってしまった。 「今日からインスリン用量決定を開始することになったので、よろしくお願いします」 私はみぬをキャットホスピタルの受付に預け、更に30分かけて会社に向かった。 夕方3時ごろ、会社からキャットホスピタルに電話をすると、当日の最終血糖値検査は4時半になるので、それ以降にみぬを迎えに来て欲しいとのこと。幸い仕事もそれほど忙しくなく、上司の監視もそれほど厳しくなかったので、私は4時半で仕事を切り上げ、キャットホスピタルに向かった。 受付嬢が、「院長先生から話があります」というので、私は待合室でしばらく待った。キャットホスピタルの営業時間は5時半までで、もう既に5時を過ぎていたが、未だに人(及び猫)の出入りは多く、受付も忙しそうだった。 院長先生に呼ばれ、診察室に入ると、本日のみぬの血糖値検査の結果が報告された。朝230程度だった血糖値が、PZIというインスリンを0.5単位打っただけで63まで下がってしまったため、これ以上インスリンを打ったら低血糖になって危険とのことだった。それにしても10月31日の初診時には525もあった血糖値がこの日はインスリンを打つ前から230とは…。そういえば、前日は全然水も飲んでいなかったし、排尿量も普通だったし、実はもうあまり心配しなくてもいいのではないかとすら思った。 みぬを家に連れて帰り、キャリーケースを開けると、みぬは待ってましたとばかりにケースを飛び出し、水を飲みに走った。血糖値は下がったはずなのに、何故喉が渇くんだろう?と不思議に思った。逆にこの日は今まで以上によく水を飲んだ。 翌朝も、同様に早朝みぬをキャットホスピタルに連れて行った。インスリンの用量決定は、このようにして一日の血糖値の変動を測定しながら、数日かけて行われるのである。猫の個体及び病状によってもインスリンの必要量は異なり、少なすぎれば血糖値が下がらず糖尿病による合併症の恐れが、多過ぎれば血糖値が下がりすぎて低血糖による意識障害の可能性があるため、慎重に行わなければならない。 結局この日は、朝は350程度だった血糖値が、インスリン0.5単位注射後、135まで下がったとのことだった。しかし、家に連れて帰ると、また水をがぶ飲みした。キャリーケースに入れられて、車に乗せられて病院通いさせられるだけでも負担になるだろうに、これを数日続けなければならないなんて、さぞかしみぬにとってはストレスだろう。何かもっと負担の少ない方法はないんだろうか?と思った。 3日目、また早朝みぬをキャットホスピタルに連れて行った。受付嬢に「何日かかるんですか?」と聞くと、「猫によって様々だけど、5日ほどかかる場合もあります」とのこと。早朝から嫌がるみぬを捕まえ、家からキャットホスピタルまで車で30分、更にキャットホスピタルから会社まで30分…私も相当疲れていたが、それよりみぬにかかる負担の方が心配だった。 5時に仕事を終え、キャットホスピタルに行くと、「今日は院長先生から話があるので、しばらくお待ちください」とのこと。待合室で猫の写真集や雑誌を読みながら先生に呼ばれるのを待った。受付嬢の口調からすると、少なくとも悪いニュースではなさそうだったのが救いだった。 閉院時間を数十分過ぎて、やっと先生に呼ばれた。今朝の血糖値はまた200台だった上に、みぬはインスリンに対する感受性が高くて血糖値が下がりすぎてしまう可能性があるため、結局この日はインスリンは打たなかったらしい。 「200台だったら、基準値よりは高いけど、そこまで問題にはならない。猫の場合は一過性の糖尿病の場合もあるので、しばらくインスリンを与えず、食事療法だけで様子を見ましょう。食事は何をあげてますか?」 と先生がいうので、先生に反対されるのを覚悟で 「手作り食をあげています」 と答えた。 「材料は?」 「Dr. ピトケアンのレシピを参考にしています」 Dr. ピトケアンといえば、ホリスティック獣医学では有名だと思っていたが、先生は知らないようだったので、材料としては七面鳥の肉にビール酵母やタウリン等のサプリメントを加えて与えていることを説明した。すると先生曰く、 「手作り食をあげたい気持ちはわかるけど、ピュリナのDMフードに切り替えることを勧めるよ。実際このフードで、猫の糖尿病が改善したとのデータが出ているから。」 私は、この「獣医が勧める」というのが実は結構曲者であるということをどこかで聞いたことがあった。ペットフード業界と獣医業界との間に何らかのコネクションがあるというのである。実際、数ヶ月前にあのおぞましいペットフード大規模リコール事件が起きたばかりで、リコールされたフードの中には療法食も含まれていた。それよりは寧ろローカーボ高蛋白のレシピを自分で考えようと思った。 帰りの車中、みぬはキャリーケースの中を動き回り、何度か「にゃ〜」と鳴いた。私は、「みぬちゃん、インスリン要らないんだって。よかったね」と言い聞かせた。これから病院通いなど気にせず、平穏な日々が過ごせることを期待しながら。 家に着き、食事を出すと、フローラが喜んで飛びついてきたのに対し、みぬは大人しく部屋の隅に蹲っていた。 「みぬちゃん、病院通い疲れたね。ごめんね、でもみぬちゃんに早く元気になって欲しかったから。」と言ってみぬの背中を撫でた。 結局この日、みぬは全く食事を口にしなかった。
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