|
第七章:面会2007年11月11日
11月11日、日曜日。朝からみぬの状況確認と面会の予約のため、サンタクルーズの専門病院に電話した。
「みぬちゃんは、大分元気になりましたよ。他の犬や猫にも反応を示しています。ただ、まだ体調は完全ではなく、食欲も戻っていないみたいです。」
「そうですか。今日、面会の予約を取りたいんですけど、いいですか?」
「何時ごろがいいですか?」
結局午後一時に面会の予約を取った。
午後は忙しくなりそうだったので、午前中に買い物等の用事を済ませるべく家を出た。しかし、11時ごろ、スーパーで買い物を済ませて家に帰る途中、クリティカリストのC先生から携帯に電話が入った。
「前の病院で挿したカテーテルの位置が悪くて不快そうだったので、位置を変えるため、みぬちゃんに鎮静剤を打ちました。まだ意識がボーっとしているので、数時間待った方がいいと思いますよ。4時ごろ来れますか?」
私もぼーっとしたみぬよりは、元気なみぬに会いたかったので、C先生の提案どおり、面会時間を4時に変更した。
日曜日だったので、サンタクルーズまでの道は渋滞しないと思ったが、早めに家を出た。結局病院に着いたのは、予約した時間より10分早い3時50分だったが、待合室では20分待たされ、4時10分になって診察室に呼ばれた。
みぬが、バスタオルに包まれて看護師の女性に抱かれて診察室に入ってきた。看護師は、バスタオルごとみぬを診察台の上に乗せた。バスタオルの中から出てきたみぬは、前足にはカテーテルの針を刺され、しかも首周りの毛をごっそり剃られ、それでなくてもやつれた体が更にやつれて見えた。
私が首周りを指して、看護師に「これ、どうしたんですか?」と訊くと、看護師は「採血のために剃りました」と答えた。
「毛が生え揃うまでにどれくらいかかりますか?」
「個体差があるので何とも言えませんけど、ほら、もうこの辺の毛が少しずつ伸びてきていますよ」
みぬは慣れない診察室が落ち着かなかったようで、診察台から飛び降り、床を歩き始めた。私が、
「ああよかった。大分元気になってる。ご飯は食べてますか?」
と訊くと、看護師は、「確認してきますので、ちょっと待ってください」と言って診察室を出て行った後、すぐに戻ってきて、
「ご飯も食べるようになったし、検査値もどんどんよくなってます」
と言った。その後、看護師は「面会時間は20分です」と言って、みぬと私を二人きりにして診察室を出て行った。
みぬは、「何故ここにママがいるの?」と少し驚いたようで、しばらく落ち着きなく歩き回っていたが、私が抱き上げて膝に乗せると、リラックスして蹲った。
「早く元気になってお家に帰ってきてね。フローラも待ってるよ。」
私が背中を撫でると、みぬはかすかに喉を鳴らした。すっかり痩せてしまい、背骨のごつごつを一つ一つ手で触れることが出来たが、目には力が戻り、周囲の物音にも反応するようになっていた。
(病院の診察室で、私の膝の上でリラックスするみぬ。)
20分後、看護師が面会時間の終了を告げるため、診察室に戻ってきた。
「まあ、すっかりリラックスしちゃって。今日の面会時間はこれでおしまいです。」
私はみぬに、「明日は忙しいから、来れるかどうか分からないけど、明後日は必ず来るからね。元気でね。」と言い聞かせた。
看護師がみぬをバスタオルで包み、連れて行こうとすると、みぬは「う〜〜〜」と唸った。
「ごめんね、みぬちゃん。でも、ママ今日はもう帰らなきゃ。」
曲がりくねった山道を車を走らせながら、色々な思いが交錯して涙が溢れ出た。思えば病気が発覚してまだほんの数週間しか経っていなかったのに、これだけの短期間であまりに多くのことが起きた。何とか回復してきているのは嬉しかったが、まだ手放しでは喜べない。それにしても、あの甘えん坊ぶりは健在、可愛かったな。面会時間が終わって看護師さんに連れて行かれたとき、みぬは怒ってたけど、もっと私とずっと一緒にいたかったんだね。
家に帰りつくと、フローラがベッドルームの窓辺に置いてあるキャットタワーの上にいた。丁度タワーの高さが私の膝上くらいまでで、私がフローラのそばに行くと、フローラは、私のお腹から太腿にかけて、服に染み付いた匂いを念入りに嗅いでいた。
「お兄ちゃんの匂いがわかるんだね。お兄ちゃん、元気になってきたよ。もうすぐ帰ってくるから待っててね。」
私はフローラの頭を撫でた。
みぬが入院して、これで三日目。フローラもよほど寂しかったようで、私がリビングのソファで猫のヘルスケアに関する本を読んでいると、膝の上に飛び乗ってきた。ソファの肘掛には、以前に同僚が旅行のお土産に買ってくれた、丁度みぬとフローラのような茶トラとグレーの猫のぬいぐるみが置いてあった。私は茶トラの方を手に取り、
「ほら、フローラもお兄ちゃん応援するんだよ。」
と言って、フローラの体に押し当てた。
(同僚のお土産のぬいぐるみ)
翌日、月曜日、出社すると土曜日に私の携帯に電話をかけてきた同僚に、みぬの様子を報告しに行った。だいぶよくなったよ…と、笑顔で話そうと思ったのに、また色々な思いがこみ上げてきて、つい涙が出てしまった。幸い個々の社員のオフィスはパーテンションで仕切られているので、泣き顔を他の社員に見られなくて済んだ。彼女も目に涙を浮かべて私の話しを聞いてくれた。
「家の旦那はそれほど猫好きというわけでもないのに、みぬちゃんのこと凄く心配してるのよ。何かあったら助けてあげたいって言ってたわ。」
「ありがとう。私の方は大丈夫。」
「無理しないでね。何かあったらいつでも連絡して。」
夕方、病院に電話をすると、受付から内科のP先生に電話が転送された。
「ケトアシドーシスは無事解決しました。早ければ明日にでも退院できますよ。ケトアシドーシス治療には短時間作用型のインスリンを使いましたが、これから長時間作用型のものに切り替え、退院後は家で注射を続けていくことになります。ランタスというインスリンです。インスリン注射の経験はありますか?」
私が猫に注射をした経験など全くないと言うと、みぬの退院時に注射の方法を指導してくれるとのことだった。
一方、私はキャットホスピタルでX線写真を撮ったときに確認された便秘の方も気になっていた。しかし、私が便秘について尋ねると、P先生曰く、
「便秘の方は特に問題ではありません。猫は環境の変化に敏感なので、入院中は排便が無くても普通ですよ。水が飲めるようになって脱水が解決すれば排便もあると思います」
とのことだった。
| |