糖尿病の食事





糖尿病の猫には何を食べさせるべきか?
市販フードの選び方
理想的なトリート
食事のタイミング
もっと自然な食事を与えたい場合



糖尿病の猫には何を食べさせるべきか?

愛猫にはできるだけ体にいい食事を与えたいですね。しかし、人間にとって「ヘルシーな食事」といえば、野菜たっぷりでお肉は控えめ…かもしれませんが、これは猫には当てはまりません(実際、ベジタリアンの飼い主さんが自分の愛猫にも肉を食べさせたくない…と言っているのを聞いたことがありますが)。
猫は肉食なので、肉以外のものを食べるようには出来ていません
1)。糖尿病の猫に限らず、猫である以上は肉を食べるべきです。

糖尿病とは、血中のグルコース濃度が高くなる病気…ということは、グルコース濃度をできるだけ上昇させない食事が大切になります。
最近、猫の糖尿病の原因として、穀類を多く含むペットフードが問題視されています。穀類に多く含まれる炭水化物は、人間のような雑食動物ではグルコースの原料として有用ですが、蛋白質等、炭水化物以外の栄養素から効率よくグルコースを産生することの出来る肉食動物では、炭水化物の摂取が殆ど必要ありません。その上、猫は唾液や膵液等に炭水化物を代謝する酵素であるアミラーゼを持たないことが知られています。すなわち、猫にとって炭水化物は「異物」ということになり、その過剰な摂取は様々な健康障害の原因となります1)
多くの獣医さんは、ペットフードメーカーの作った療養食を勧めますが、これらが必ずしも猫にとっていいとは限りません。まず、療養食の原料を見ていただくと分かると思いますが、全粒粉やコーングルテンミール等の炭水化物源を含む上、蛋白源として大豆等の植物蛋白が使用されていたりもします。
そして、これらのフードは食物繊維を多く含む場合が多く、特に糖尿病で痩せている猫にとっては栄養分の吸収の妨げになってしまいます。
糖尿病の猫に限らず、猫に大切なのは、高蛋白(動物性蛋白)低炭水化物食です。
そこで、原料表示をよく見て質のよい市販フードを選ぶ、若しくは高蛋白低炭水化物食を自分で作ることをお勧めします。

私は獣医ではありませんが、猫に生肉を食べさせることには賛成です。肉食である猫は、自然界では獲物を生のまま食べ、その酵素を生きた形で体内に取り入れているわけです。多くの獣医は食中毒を懸念して生肉を与えることに反対しますが、うちの猫たちは数年生肉を食べていても、食中毒になったことは一度もありません。実際、猫の強い胃酸は強い殺菌能力を持ち、しかも消化管が短くできているため、食中毒を起こす前に食物が腸管を通過するようにできているのだそうです。そして、猫にとって重要な栄養素であるタウリンは、生肉には豊富に含まれますが、熱に弱いため過熱するとその効力が失われてしまいます1) 2)
肉の中に含まれる酵素も、加熱すると構造が変化して活性が失われるため、やはり肉は生のままで与え、酵素をそのまま体内に取り入れられるようにするのが理想的と私は思います(但し、この件については獣医によっても意見が分かれますので、自己責任での判断をお願いいたします)。因みに、逆に肉を冷凍した際に酵素活性はどうなるかですが、酵素の構造自体は保存されるため、解凍すれば100%とまではいかなくても、活性は戻るものと思われます。

尚、高蛋白食は糖尿病にはよくても腎臓には悪影響ではないかとの懸念もあるかもしれませんが、実は猫の場合腎不全に対して蛋白摂取量を控えることは却って悪影響であるとの見解も出ており、最近では却って高蛋白食を勧める獣医さんも増えているようです3)





市販フードの選び方

上記の通り、猫は肉食であるため、肉以外の食物を殆ど必要としません。原料表示、成分表示をよく見て、以下の点に注意して選びましょう。

1.ドライフードは極力避ける
ドライフードの主原料は肉ではなく穀類です。尚、水分含量が極力少ないため、特に糖尿病の猫では脱水状態を悪化させます。たとえ療法食でも、ドライフードは避けた方が無難です。

注意:成分表示の盲点
例えば、同じブランドのDM療養食の缶バージョンとドライバージョンに、以下の成分表示が記載されていたとします。
 缶:蛋白質12.5%、脂肪4.5%、線維2.0%、灰分1.8%、水分77.0%
 ドライ:蛋白質51.0%、脂肪15.0%、線維3.0%、灰分6.0%、水分12.0%

一見、ドライフードは高蛋白質でよさそうに見えます。しかし、ここで注意すべきは、まず炭水化物含量が記載されていないこと、そして缶フードとドライフードでは水分含量が大きく異なることです。
まず、ミネラル等の微量成分を除けば、全体からこれらを差し引いた分が炭水化物ということになります。つまり…
 缶:100% - (12.5% + 4.5% + 2.0% + 1.8% + 77.0%) = 炭水化物2.2%
 ドライ:100% - (51.0% + 15.0% + 3.0% + 6.0% + 12.0%) = 炭水化物13.0%

更に、水分を除いた組成は、以下のようになります。
 缶(100%-77%=22%が乾燥量なので、各値を22で割り100を乗ずる):蛋白質54.3%、脂肪19.6%、線維8.7%、灰分7.8%、炭水化物9.6%
 ドライ(100%-12%=88%が乾燥量なので、各値を88で割り100を乗ずる):蛋白質58.0%、脂肪17.0%、線維3.4%、灰分6.8%、炭水化物14.8%

つまり、蛋白質含量はそれほど差がないのに、ドライフードの炭水化物含量は缶フードの約1.5倍という計算になります。尚、蛋白質といっても100%動物性蛋白ではないことにも注意が必要です。穀類や大豆由来の植物性蛋白質は、猫の体に効率よく吸収されません。


2.原料に穀類を含むフードは避ける
実際にフードを選ぶときにわざわざ上記のような計算をする人はまずいないでしょう。そこで、フードを選ぶときに参考にしていただきたいのは原料表示です。
フードの原料表示は、多く含まれている材料から先に表示されます。小麦粉、コーン、グルテン、米等の穀類は全く含まれないのが理想的ですが、特に最初の方に表示されているものは避けましょう。

注意:原料表示のトリック
例えば、原材料に「チキン、コーングルテンミール、チキンレバー、トウモロコシ粉…」と表示されている場合、一見チキンが主原料のように見えますがここには以下の二つのトリックが隠されています。
1)コーングルテンミールとトウモロコシ粉は、いずれもトウモロコシから作られています。これらを分けて表示することで、チキンより少ないように見せかけていますが、実は合計するとチキンの含量を上回っている可能性があります。
2)コーングルテンミールとトウモロコシ粉が乾燥物であるのに対し、チキンやチキンレバーはそのままの状態では水分を75%も含んでいます。つまり乾燥重量にして換算すると、チキンやチキンレバーの含量がコーングルテンミールやトウモロコシ粉を下回っている可能性があります。


3.使用されている野菜にも注意
「野生の猫は、小動物を内臓ごと丸のまま食べるので、消化管の中の植物も一緒に食べる。だから、猫も少しは植物を摂取する必要がある」…という考えもあるようですが、実際小動物の消化管の中の植物はごく微量です。それに、小動物の消化管内の植物は既に消化済みであるのに対し、猫は直接植物を食べても消化できないため、栄養にならないだけでなく、体に害になる場合もあります。特に糖分や炭水化物を多く含む野菜(果物類、イモ類等)を含むフードは避けた方がよいでしょう。


4.意味不明な蛋白源を使っているフードは買わない
ペットフードの原料でよく見かける表示が、「チキンミール」「鶏副産物」など。何故「チキン」ではなく「チキンミール」なのかというと、所謂人間が食べているチキンとは違うからです。「ミール」とは、乾燥させて粉にしたことを意味します。また、「副産物」は、トサカやくちばしなど、人間が食用としない部分を意味します。これらの原料からは効率よく生きた蛋白質が摂取できません。(注:但し、人間が食べない部分でも、内臓は却って猫の体にいい場合もあるので、「副産物」全てを否定するわけではありません。)
尚、流石に今でも行われているかは不明ですが、4Dミート(Dead、Dying、Diseased、Disabled:死んだ、死に掛けた、病気の若しくは障害を持った動物の肉)がペットフードの原料として使用されていたという事実も報告されており
4)、また2007年のペットフードリコール事件の件もありますので、多少高くても信頼できるメーカーのフードを買うようにしましょう。




理想的なトリート

インスリンで血糖値が下がりすぎたとき、食欲がなんとなくないとき等、大好きなトリートを常備しておくと便利です。
しかし、せっかく高蛋白低炭水化物食を与えているのに、高炭水化物のトリートを与えてしまっては台無しです。
トリートも必ず高蛋白低炭水化物のものを選ぶようにしましょう。

(魚を乾燥させただけのシンプルなトリート。蛋白質は70%以上。但しトリートなのであげすぎないように。)




食事のタイミング

食事を摂ると、当然血糖値は上昇します。健康な猫なら、必要なときに適度なインスリンが分泌され、血糖値が正常値に保たれるのですが、糖尿病の猫においては、自前のインスリンが不足しているため、血糖値を上げすぎないよう工夫する必要があります。
家庭での治療に使われる長時間作用型若しくは持続作用型のインスリンでは、あまり食事のタイミングを気にしなくてもいいといわれますが、私の経験上、かなり血糖値は食事のタイミングとインスリン注射後の時間に左右され、タイミングによっては血糖値が急上昇してしまうこともあります(猫によって個体差もあると思われますが)。
以下の点に気をつけると、ある程度血糖値の急上昇が抑えられるようです(但し、これはPZIなど作用のピーク時間や持続時間がある程度予測可能なインスリンを用いた場合です)。

1.インスリン作用がピークに達した頃の食事は、血糖値の急上昇に注意。インスリンの作用が切れるタイミングと食事の影響が重なると、血糖値が急騰することがあります。

2.できれば、インスリンを注射して2-3時間頃に食事を与えるとよい。一日二回投与のインスリンでは、注射後2時間程度で効果が現れ始め、6-8時間で作用がピークに達するのが理想ですが、インスリンが効き始めるときに空腹だと、投与周期の初期に低血糖を起こしたり、リバウンドしてしまったりすることがあります。丁度インスリンが効き始めるタイミングで食事を与えると、血糖値を緩やかに下げ、尚且つインスリンの作用ピーク時にはしっかり効果を発揮させることが出来ます。

3.食事は一日数回に分けて与える。食事を小分けにして与えると、一度に多量の食事を摂取する場合に比べて、極端な血糖値の上昇及び下降を防ぐことが出来ます。

猫ちゃんの血糖値の変動と、インスリンの効き方と食事の関係を観察しながら、ベストな方法を見つけていってください。仕事等で思い通りに時間が取れない場合は、タイマー付きフィーダーがあると便利だと思います。




もっと自然な食事を与えたい場合

実は、猫にとって最も自然な食事は、ネズミや鳥などの小動物。そして、これらの獲物を捕まえると、まず猫は筋肉ではなく、内蔵から食べます。
ということで、以下のように、小動物や内臓肉を冷凍で販売しているオンラインストアもあります(私はまだ利用したことがありません)。

Rodentpro.com
その名の通り、肉食ペットの餌として、マウスやラットなどRodent(げっ歯類)を丸のまま冷凍したものを販売しています。

Hare Today
生の内臓肉や、小動物の冷凍、内臓を乾燥させたペット用トリートなどを販売しています。



参考資料

1)
Debra L. Zoran, DVM, PhD, DACVIM; The Carnivore Connection to Nutrition in Cats; JAVMA, Vol 221 (11), 2002
2) Lisa A. Pierson, DVM; Feeding Your Cat: Know the Basics of Feline Nutrition
3) Elizabeth Hodgkins, DVM; Your Cat
4) Ann Martin; Food Pets Die For: Shocking Facts About Pet Food




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