猫の栄養学





猫は肉食動物
タンパク質
タウリン
ビタミン類
ミネラル
脂質
炭水化物及び食物繊維



猫は肉食動物

猫を飼っている人なら、誰でも猫が肉食であることは知っているはず。それでは、肉食動物と草食動物では消化器系の構造がどのように違うのでしょう?
肉食動物 草食動物
犬歯が発達しており、奥歯も尖っていて、肉を引き裂いて食べる。肉の塊を細かくすりつぶさずに丸飲みするため、唾液中には消化酵素が少ない。 前歯で植物を噛み切り、奥歯で食物を小さくすりつぶして食べる。食物をよく噛んで、唾液中の消化酵素と混ぜ合わせて飲み込む。
胃酸が強いため、丸飲みした肉や骨でも消化でき、また寄生虫やバクテリアにも強い。 胃酸が弱いため、肉食には適応しない。
腸管が短いため、食物が腸管内に留まる時間が短く、腐敗する前に体外に排泄される。植物に含まれる繊維質は消化吸収に時間がかかるため、肉食動物には適さない。 腸管が長く、食物が腸管内に長時間滞在するため、栄養分の吸収効率がよい。腸内細菌の力で、植物の繊維質が時間をかけて消化吸収される。

つまり、肉食動物の方が消化の過程が短時間かつ単純で、体に必要な栄養素をそのまま他の動物から直接取り入れているのに対し、草食動物は体に必要な栄養素を体内で複雑な過程を経て作り出しているということになります。

そして肉食動物には、植物を食べなくても自分の体で十分な量を合成できる栄養素、自分では合成できないので肉から摂取しなければならない栄養素、摂取しすぎると毒になる栄養素があります。
以下に、肉食動物である猫にとって必要な栄養素、不要な栄養素、そして害になる栄養素についてまとめてみました。



タンパク質


体内での機能
1.筋肉、皮膚、被毛、臓器などの重要な構成要素となる。
2.ホルモンや酵素など、体の機能を調整する物質若しくはその原料となる。
3.エネルギー源になる。


タンパク質の構造
1.一次構造:タンパク質の構成単位であるアミノ酸が鎖のように繋がった状態。
2.二次構造:アミノ酸の鎖がへリックス(螺旋)構造、シート構造などの部分的な立体構造を形成。
3.三次構造:タンパク質分子全体としての立体構造。タンパク質の機能に関わり、加熱調理によってこの立体構造が変化するとタンパク質は活性を失う。肉に含まれるタンパク質を活きた形で摂取するためには、肉を加熱しないことが大切。
4.四次構造:タンパク質のサブユニットの集合体。


必要摂取量
1)
成長期の猫では最低限摂取カロリーの30%、成猫では最低限26%をタンパク質から摂取する必要がある。猫は肉や乳製品中のタンパク質を70〜90%の確率で利用できるのに対し、穀類や豆類中のタンパク質は50〜60%程度しか利用できない。


猫にとって重要なアミノ酸2)

1.猫の必須アミノ酸
タンパク質の基本単位であるアミノ酸には、約20種類が知られているが、これらのうち体内で合成できないため食物から摂取しなければならないものを必須アミノ酸という。
猫にとっての必須アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリンの10種類。
これらのうち、アルギニン以外は人間にとっても必須アミノ酸だが、人間がアルギニンを体内で合成できるのに対し、猫は腸内にアルギニン前駆体オルニチンを合成する酵素を持たないため、アルギニンを自分で合成することができないので、食物から摂取しなければならない。尿酸回路(アンモニアを尿酸に変換して無毒化して排泄させる経路)に必要なアミノ酸なので、アルギニンが不足すると高アンモニア血症を招く恐れがある。筋肉に豊富に含まれるアミノ酸であり、幸い肉を主に食べている限りは不足することはない。

2.その他猫にとって重要なアミノ酸
システイン:硫黄元素を含むアミノ酸で、必須アミノ酸のメチオニンとともにSAM-eの原料となり、脳神経や関節の機能維持に役立つ。また、エネルギー源としても重要。
チロシン:メラニン色素の原料となる。必須アミノ酸フェニルアラニンから体内で合成される。被毛にとって重要な栄養素。



タウリン


体内での機能

1.網膜の機能をサポート:タウリンが不足すると網膜機能が低下し、視覚障害を起こす。
2.脂質の消化促進:胆汁酸と抱合して、胆汁の分泌を促すことで、脂質の消化機能を助け、肝臓を保護する。ヒトではアミノ酸のグリシンも胆汁酸と抱合できるが、猫ではタウリンのみが胆汁酸と抱合できるため、より多くのタウリン摂取が必要になる。
3.心疾患の予防:自律神経機能を正常化させることにより、血圧を正常化させ、心臓を保護する。タウリン不足により拡張性心筋症が起こることが知られており、放置すると命に関わる。
4.繁殖機能の向上:虚勢・避妊手術済みの場合はあまり関係ないかもしれないが、タウリンは繁殖機能にも関わっている。
5.インスリン感受性の向上:インスリンを効きやすくするため、糖尿病患者の血糖値調整にも役立つことが期待されている。但しβ細胞を修復させる機能は確認されていない。
3)
6.免疫強化作用:病気に対する抵抗力を高める。


タウリンを含む食材
タウリンを豊富に含む食材の中にも、猫に与えてよいものと与えてはいけないものがあるので要注意。

積極的に与えたい食材
心臓肉:鶏や七面鳥の心臓肉が特にお勧め。タウリン摂取のためには、生で与えるのがベスト。
生肉全般:通常人間が食べる鶏モモ肉等にも、タウリンは含まれている。但し心臓肉ほど豊富には含まれていない。

注意したい食材
イカ、タコ、エビ、魚等:魚介類は豊富にタウリンを含むが、生で与えるとチアミナーゼという酵素がビタミンB1を分解してしまうため、加熱してチアミナーゼを失活させる必要がある。しかし、タウリンは加熱により吸収効率が下がるため、これらは猫にとって理想的なタウリン供給源とはいえない。

与えない方がよい食材
貝類:貝に含まれる毒素が皮膚炎を起こす可能性がある。特に内臓は危険。


タウリン摂取を低下させる要因
インスリン感受性向上をはじめ、糖尿病にはいいこと尽くめのタウリン。しかし、意外とデリケートな栄養素なので、ねこに効率よく摂取させるためには少しコツが必要。以下の要因がタウリンの摂取効率を低下させてしまうことが知られている。

1.加熱調理
茹でると、タウリン自体が熱で分解されてしまうわけではないが、茹で汁の中にタウリンが流出してしまう。
市販の缶フードは加熱調理した上にサプリメントでタウリンを加えているが、しかしそれでも加熱した肉と一緒にタウリンを摂取しても効率よく吸収されないことがわかっている。加熱調理した肉が、腸内細菌を異常に活性化させてしまうことが原因とみられ、胆汁酸のタウリン抱合が異常に亢進し、消化管からの排出が増え、結果として体内からの損失が多くなることが示唆されている。4)

2.穀類の摂取
特に米ぬかを摂取すると、劇的にタウリン摂取効率が下がることが報告されている。5)タウリンをサプリメントで与える場合は、添加物として穀類を含むものは避ける。

3.糖尿病などの疾患
ヒトの2型糖尿病では、尿中へのタウリン排泄が増える分、血中のタウリン濃度が低下することが知られている。6)タウリンは過剰摂取による有害性は知られておらず、過剰摂取しても体外に排出されるため、特に糖尿病の場合は多めに摂取する必要があると思われる。





ビタミン類


ビタミンA
脂溶性ビタミン。視覚の維持、粘膜や皮膚の保護に重要な役割を果たす。

欠乏症
ビタミンAが欠乏すると暗順反応(暗闇への目の順応)が悪くなることが知られているが、猫では稀。

過剰症
肝毒性、脂肪組織炎、骨格の異常など。1Kgあたり17mg(57,000単位)以上のビタミンAを毎日摂取し続けると過剰症の症状が出ることが知られている。
1)

注意点
レバー、卵黄などがビタミンA供給源として適切。レバーが大好物の猫も多いが、脂溶性ビタミンは過剰分が体内に蓄積され、健康障害を起こす可能性もあるので、レバーを主食としてはならない。
猫はβカロチンを体内でビタミンAに変換することができないため、ビタミンA供給を目的として緑黄色野菜を与えることは無意味。


ビタミンB群
水溶性ビタミンなので、腎機能に異常がない限り多めに摂取すれば過剰分は尿中に排泄される。猫で特に重要なのはチアミン、ナイアシン(ビタミンB3)、ピリドキシン(ビタミンB6)、シアノコバラミン(ビタミンB12)など。肉中心の食事では殆ど不足することはない。

チアミン(ビタミンB1)
神経や筋肉の機能維持に重要で、不足すると筋力低下が起こることがある。生の魚介類に含まれるチアミノーゼにより分解されてしまうため、魚介類を生のまま与えてはいけない。また、植物性タンパクの摂取や熱によっても分解されてしまうことが知られている。

ナイアシン(ビタミンB3)
タンパク質、脂質、糖質の代謝に重要な補酵素。猫はトリプトファンからナイアシンを合成することはできないが、動物組織中に豊富なビタミンなので、肉を食べている限り不足することは殆どない。ヒトでは不足によりペラグラ等の皮膚疾患が起こることが知られている。

ピリドキシン(ビタミンB6)
タンパク質の代謝に重要なビタミンで、猫では特に重要。

シアノコバラミン(ビタミンB12)
ヘモグロビンの合成を促進する。不足すると悪性貧血が起こるが、肉中心の食事で欠乏症が起こることは稀。


ビタミンC
水溶性の抗酸化ビタミン。
野菜や果物に豊富に含まれるビタミンだが、猫は肉食なのでビタミンCを食べ物から摂取しなくても体内で十分な量を合成することができるようになっている。従って野菜やサプリメントで供給する必要はあまりない。


ビタミンD
脂溶性ビタミン。日光浴でも合成されるが、食物からの摂取も必要。

欠乏症
ビタミンDはカルシウムの吸収に役立つビタミンなので、不足すると骨や歯がもろくなる。

過剰症
高カルシウム血症。

注意点
ビタミンDはレバーや肝油に豊富に含まれるが、ビタミンA同様、脂溶性ビタミンなので過剰に摂取すると体内に蓄積されて健康障害を起こす可能性がある。


ビタミンE
脂溶性抗酸化ビタミン。猫が青身魚を食べ過ぎると、脂肪の酸化による黄色脂肪症になる危険性があることが知られているが、ビタミンEがそれを防ぐことが知られている。
不飽和脂肪酸の酸化防止目的でキャットフードに添加される。


ビタミンK
脂溶性ビタミン。腸内細菌によって合成される。抗生物質による治療等で腸内細菌数が減った場合には補給する必要があるが、通常は体内で十分な量を合成できる。



ミネラル


体内での機能
1.体内のpHを正常に保つ。
2.ホルモンの分泌に関わり、体の機能を維持する。
3.骨格や組織の構造の維持。


カルシウムとリン
1)
カルシウムとリンの比率は丈夫な骨を維持するために重要。リンが過剰になり、カルシウムが不足すると、骨の異常の他、腎機能障害の原因になることも知られており、高齢の猫によくある腎不全は、タンパク質よりリンの過剰摂取が問題であるとも言われている。
野外で生活している猫は、獲物の骨の一部も食べるので、自然とカルシウムとリンのバランスが取れるようになっている。
しかし、人間用に販売されている筋肉や内臓肉では、リンに対するカルシウム含有量が低いので、ボーンミール(肉400〜500gにつき大匙一杯)や卵殻パウダー(肉400〜500gにつき小匙一杯若しくは卵一個分)等でカルシウムを補給するか、若しくは骨ごとミンチにした肉を与えるのが理想的。また、卵の白身を加熱したものもリンを含まない良好なタンパク源となる。
カルシウムとリンの比率は0.5:1〜2:1に保つ。特に高齢で腎臓の弱った猫では、リンの比率を少なめに。


マグネシウム1)
骨の構成要素であり、体内のマグネシウムの60〜70%はリン酸マグネシウム若しくは炭酸マグネシウムの形で骨に存在する。
その他は細胞中に存在し、エネルギー産生やタンパク質代謝に関わっている。また、神経伝達にも関連している。
ストルバイト尿結石の原因とされていたが、尿がpH6.1以下の酸性ではストルバイト結石が起こる心配はないとされる。植物性の食事は尿をアルカリ化させるので注意。



脂質


体内での機能
1.エネルギー源となる。
2.細胞膜の構成成分になる。
3.ホルモンの原料になり、体の様々な機能に関連する。
4.脂溶性ビタミンの吸収を促進させる。


必須脂肪酸
体内で合成できないため、食物から摂取しなければならない脂肪酸が必須脂肪酸。リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などがある。
アラキドン酸は、多くの動物で体内でリノレン酸から合成することができるが、猫は自分で合成できないため食物からの摂取が必要。植物性脂肪にはアラキドン酸が含まれないため、動物性食品から摂取する。
アラキドン酸、EPA、DHAは魚油に豊富に含まれる。


必要摂取量
1)
摂取カロリー全体の2.5%はリノレン酸、0.04%はアラキドン酸から摂取する。脂肪全体としては、摂取総カロリーの20〜40%を占めるのが望ましい。動物性脂肪は猫の健康維持に必要なので、ダイエット中でも必ず適量摂取する必要がある 。



炭水化物及び食物繊維


猫の場合、炭水化物や糖質の摂取は殆ど必要なく、過剰摂取により健康被害を起こす懸念もある。

炭水化物が猫の体に及ぼす弊害
1.猫は唾液中にアミラーゼを含まないため、炭水化物の消化が苦手。
2.血糖値の維持のためには肝臓中に蓄えられたグリコーゲンがグルコースに変換されるが、猫はアミノ酸からグリコーゲンを作ることができるため、グルコースを摂取する必要はない。
3.猫の満腹中枢はタンパク質と脂質によって刺激されるが、本来猫の食べ物ではない炭水化物では満腹中枢が正常に刺激されず、食べ過ぎてしまう恐れがある。
4.猫の膵臓は高濃度のグルコースに対応できていないため、炭水化物の摂取で高血糖が続くと、膵臓のインスリン放出機能が消耗して、糖尿病になる危険性がある。


食物繊維
上記「
猫は肉食動物」の項に記載したとおり、猫の腸は短く、繊維質の消化に適しておらず、腸内で未消化の繊維が猫の体に必要な栄養素の吸収を妨げてしまう。
ヒトでは食物繊維の摂取は健康にいいとされ、特に糖尿病では高繊維食が推奨されるので、猫糖尿病療法食でも同じ理由から繊維質が強化されているが、特に猫が痩せている場合には栄養の吸収が妨げられてしまうため、高繊維食は理想的とはいえない。




参考資料

1)
Max's House, Feline Nutrition
2) Debra L. Zoran, DVM, PhD, DACVIM; The Carnivore Connection to Nutrition in Cats; JAVMA, Vol 221 (11), 2002
3) Tang, C. et al.; Evidence for a Role of Superoxide Generation in Glucose-Induced beta-Cell Dysfunction In Vivo; Diabetes, Vol 56, November 2007
4) Kim et al.; Dietary Antibiotics Decrease Taurine Loss in Cats Fed a Canned Heat-Processed Diet; The Journal of Nutrition, 126 (2): 509., 1996
5) Stratton-Phelps et al.; Dietary Rice Bran Decreases Plasma and Whole-Blood Taurine in Cats; The Journal of Nutrition, 132 (6): 1745S., 2002
6) Merheb et al.; Taurine Intestinal Absorption and Renal Excretion Test in Diabetic Patients; Diabetes Care, 30 (10): 2652., 2007





ナスカ無料ホームページ無料オンラインストレージ