インスリン「PZI」について





「PZI」とは、Protamine Zinc Insulinの略で、インスリンに魚由来の蛋白質プロタミン、及び塩化亜鉛を加えることで、皮下注射後に作用が穏やかに長時間持続するよう調節されたものです。
猫用には、牛由来、豚由来、若しくはその混合型の製剤があります。
最近は、「ランタス」がクイーンズランド大学の研究で高い離脱率が得られたことからこちらを第一選択とする獣医も増えていますが、ランタスは人間用に開発されたインスリンであり、猫においてはその体内動態が予測不可能なのに対し、猫本来のインスリンは牛のインスリンと構造が似ており、その牛のインスリンを用いて猫専用に調整されたPZIは穏やかにしかも確実に作用するため、PZIの方が猫の糖尿病にはよいという意見も多いです。
日本では販売されていないようですが、獣医さんによっては輸入して使っていらっしゃる場合もありますので、他のインスリンでコントロールが上手くいかない場合は問い合わせてみるといいかもしれません。

PZIの種類
PZI使用に当たっての基本的注意
PZIの体内動態
PZI投与プロトコル

PZIの種類1)

PZI Vet (IDEXX)(2008年に製造中止)2)
組成は、牛由来インスリン90%、豚由来インスリン10%。
40U(1mL当たり40単位)で配合されており、少量での用量調整がしやすくなっている。
指示されたとおりの保存方法で管理すれば、3年間は品質が保証される。
もともとイーライリリー社が製造していたが、製造が中止された後、ブルーリッジ社(IDEXXの旧名)がこの処方を買い取った。
原料が底をつき、FDA承認済みの牛由来組織の培養施設も見つからないため、2008年に製造中止となった。


ProZinc(2009年11月12日アメリカにて承認取得)
PZI Vetが製造中止になり、その代替品として開発されたヒト遺伝子組み換えインスリン製剤。ベーリンガー・インゲルハイム・ヴェトメディカが販売。
臨床試験の結果、PZI Vetと同様の安全性、有効性、及び動態を示すことが確認されている。臨床試験結果は以下の通り。

1.PZI-VETで血糖値がコントロールされていた猫50匹に、30日間新製剤を使用した。47匹が30日間の試験を終了し、体重、フルクトサミン値、インスリン投与量はPZI-VET投与時と比べて有意差は認められなかった。尚、試験中止となった3匹中、1匹は離脱、1匹はコントロール不良、1匹は低血糖による。5)

2.新たに糖尿病と診断された猫120匹と、他のインスリンによるコントロールが上手く行かなかった猫13匹を対象に、新製剤一日二回投与を45日間行った。試験期間中、体重、フルクトサミン値及び投与後1、3、5、7及び9時間後の血糖値を4回(7、14、30及び45日目)測定した。結果、84%の猫(他のインスリンでコントロールが上手く行かなかった猫13匹中9匹を含む)が45日目までにはコントロールが上手く行くようになり、臨床症状や検査結果も向上した。6)


BCP PZI
牛由来100%のインスリン製剤。テキサスのBCP Veterinary Pharmacyにおいて配合されている。獣医がBCP社に処方箋を送ることで入手可能。
IDEXX社の製品が工業生産であるのに対し、BCP社のものは人の手によって調合されている。品質保証期間は6ヶ月。
40U、50U、100U等の処方がある。
BCPのPZIに関しては、現在のところ販売中止の予定はなし。


Vetsulin (Caninsulin)
豚由来100%のインスリン製剤。アメリカでは商品名VetsulinとしてIntervet Inc.により販売されている。国によってはCaninsulinの名で販売されている。
本来FDAにより犬専用に使用が承認されていたが、2008年3月に猫への使用が追加承認された。他の猫専用のPZI製剤と比べると、作用発現時間が早く持続時間が短いと言われる。
2009年11月2日付で、亜鉛-インスリン結晶の含量の不均衡により、作用時間に差が生じる可能性があるとの警告がFDAより発表された。


その他のPZI
イギリスでは、Insuvet、CP Pharma等の牛由来100%のインスリン製剤も入手可能。





PZI使用に当たっての基本的注意

−均一な溶液ではなく、懸濁液なので、優しく手の中で転がすようにして混ぜる。インスリンの結晶が壊れるので激しく振ってはいけない。
−保存は冷蔵庫で、凍結させないこと。直射日光に当てないこと。



PZIの体内動態

IDEXX社のPZIの場合、作用時間のピークは、大部分の猫において投与後6時間から8時間後に訪れるので、一日二回投与が一般的だが、たまに9時間後に作用のピークが現れることがある。このような猫においては一日一回投与が望ましいこともある。







PZI投与プロトコル

インスリン投与は担当医の指示の下で行っていただくのが基本ですが、もしこれらのプロトコルに興味があれば、担当医と相談されることをお勧めします。

基本プロトコル
3)
体重1ポンド当たり0.1から0.3単位(1Kg当たり0.22から0.6単位)を一日二回から開始。血糖値、臨床症状によって適宜調整。
更に、食事内容の変更、体重の変化、併用薬や感染症、新生物、その他の内分泌系疾患によって用量調整が必要になることもある。


タイトレギュレーションプロトコル4)
Dr. E. HodgkinsがウェブサイトYourdiabeticCat.com(英語)で公開しているかなりアグレッシヴなプロトコル。
猫がインスリン離脱できる確率が高く、離脱できなくても臨床症状の改善率が高いため、お勧めではあるが、実行するには以下の条件が不可欠。

−自宅で血糖値測定が出来る。
−少なくとも6-8時間ごとに血糖値を測定することが可能である。出来れば24時間いつでも血糖値測定及び注射ができた方がよい。

多くの獣医は、猫の臨床症状の改善を第一目標とし、血糖値が多少高くても糖尿病の症状が出なければよしとするのに対し、この先生は、「高血糖状態が続くと膵臓にダメージが及ぶので、血糖値は是非とも正常値まで下げるべき」と仰っています。
Dr. Hodgkinsは、ドライフード等の高炭水化物食を食べ続けている猫の肝臓は、自らの力でグルコースを産生することを忘れてしまうため、低血糖を起こしやすいのだといいます。このプロトコルに従って低炭水化物食を食べている猫は、低血糖の危機にも対応できる体になるのだそうです。
尚、インスリンの与えすぎによるソモギー効果(リバウンド)で逆に血糖値が上がってしまう恐れがあり、多くの獣医はこの段階でインスリン用量を減らしてリバウンドを抑えるよう指導するのに対し、Dr. Hodgkinsはリバウンドを高用量のインスリンで抑え続けることで、体に血糖値が低い状態が正常であることを覚えさせるべきと仰っています。

1.食事
ドライフード及び高繊維食は厳禁。ドライフードは、炭水化物含量が多く、また肉食の猫の消化管の構造では、繊維質の多い食事からは効率よく栄養が吸収できない。
ウェットフードでも、コーン、グルテン、米、芋、ニンジン、果物等を原料に含むものは避ける。

2.インスリン
基本的にはPZIを用いる。PZIは猫の体内で理想的な作用をするよう調整されているからである。これに対し、ランタスは人間の体内では作用が顕著なピークを示さず24時間持続的に作用するよう調整されているが、猫の体内での動態は予測不可能なため、このプロトコルには向かない。

3.インスリン用量
開始用量の目安

投与前の血糖値(mg/dL) インスリン用量(単位)
151-170 0.5
171-185 1
186-200 1.5
201-220 2
221-250 2.5
251-290 3
291-350 3.5
351-410 4

上記の用量を、猫に対するインスリンの効き具合を見ながら、例えば以下のように調節していく(猫によって必要量は大きく異なるtため、以下の用量はあくまで目安)。

投与前の血糖値(mg/dL) 高用量が必要な猫(単位) 低用量で十分な猫(単位) 高用量では効きすぎるが
低用量では効かない猫(単位)
151-170 1 0.25 1
171-185 2 0.5 1.25
186-200 3 0.75 1.5
201-220 4 1 1.75
221-250 5 1.25 2
251-290 6 1.5 2.25
291-350 7 1.75 2.5
351-410 8 2 2.75
411- 9 2 2.75

尚、同じ血糖値でも、前回注射したインスリンがどれだけ体内に残っているのか、これから急激な血糖値の上昇が予想されるのかによってインスリン必要量が異なるので、経験に基づいて微調整していく。但し、インスリン用量は食事とは関連させない。
必ず少なくとも6-8時間おきに一日3-4回血糖値を測定すること。
通常、投与後6-8時間でインスリンの作用がピークに達するが、その段階でまだ血糖値が高ければインスリンを追加で打つ。血糖値が正常範囲若しくはそれより低ければ、1時間ごとに血糖値を測定し、上がってきたところでインスリンを打つ。
この用量で開始すると、数日間で「正常範囲内」の血糖値が得られる。血糖値が60-120に治まることがこのプロトコルの目的であり、たとえ30-50まで下がったとしても、シロップやドライフードを与えてはならず、高蛋白質のウェットフードを少量与えるだけでよい。
治療を開始した段階では、肝臓が驚いて血糖値のリバウンドを起こすこともある。特に高血糖を長い間放置すると、肝臓は高血糖の状態が「正常」だと思い込んでいるため、インスリンにより血糖値が下がると抵抗して(Temper tantrum:癇癪を起こして)血糖値をどんどん上げようとする。肝臓に、血糖値が低い状態が正常であることを覚えさせるためには、上がる血糖値を抑え続ける必要がある。
治療を続けていくうちに、インスリンの必要量が少なくなってゆき、投与が必要なくなることもある。



参考資料

1)
Pet Diabetes Wiki, PZI
2) PZI VET (Protamine Zinc Insulin) Brochure
3) PZI(IDEXX)添付文書
4) YourDiabeticCat.com by Dr. E. Hodgkins
5) G.D. Norsworthy, R. Lynn, C. Cole; Preliminary Study of Protamine Zinc Recombinant Insulin for the Treament of Diabetes Mellitus in Cats. Veterinary Therapeutics 10(1-2): 24-28, 2009
6) Nelson R.W., Henley K., Cole C., PZIR Clinical Study Group; Field Safety and Efficacy of Protamine Zinc Recombinant Human Insulin for Treatment of Diabetic Mellitus in Cats. J Vet Intern Med 23:787-793, 2009







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